大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和25年(う)786号 判決

控訴人 被告人 小田島寅雄

弁護人 庭山四郎

検察官 小松不二雄関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人庭山四郎及び被告人の各控訴趣意は別紙記載の通りである。

弁護人の控訴趣意第一点について考へるに、本件における端場ハツ、大崎修一及び株式会社西屋の各盗難被害始末書は、いづれもそれ等文書作成者の盗難事実の供述書であつて、その宛名が誰れであるかはその供述書自体の効力には影響を及ぼすものではないし、又更に検討を加へるに、本件犯罪は釧路市内に行はれた犯罪行為であるから、警察法の定めるところに従ひ釧路市の自治体警察において搜査するのが原則であるけれども、一方警察第五十八条によれば、国家地方警察はその管轄区域外にも職権を及ぼすことができる旨を規定しているのである。今本件について見ると、記録編綴の領置調書によれば被告人は本件窃盗にかゝる贓物を釧路地区警察の管轄区域内である阿寒郡阿寒村の被告人自宅に持ち帰つていることが判るのであつて、かかる場合には釧路市において行はれた窃盗行為が釧路地区警察の管轄区域内に及んだ場合と解するのが相当であるから、本件窃盗犯罪については釧路地区警察にその搜査の権限がありといはなければならない。従つて本件被害者等が釧路地区警察署長に宛てゝ出した各始末書は本件犯罪について搜査の権限ある者に宛てられたものであつて、有効であり、これを証拠に採用した原判決は何等法令に違反したかどはない。所論のやうに審理不尽の点はないのである。

弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意について考えるに、一件記録を調査するに、所論の援用の諸事情を考慮にいれても原判決の量刑は重きに過ぎるとは信じられないのである。

よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却し、当審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人をしてこれを負担させることとした。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

弁護人庭山四郎の控訴趣意

第一点原審判決には審理不尽の違法がある。

原判決証拠理由によれば、被害者端場ハツ、大崎修一、株式会社西屋の各盗難被害始末書を証拠として採用しているが之等の各書類は孰れも釧路地区警察署長宛のものである。

翻つて一方本件の犯罪は原判決摘示事実によれば、孰れも釧路市内であつて自治警察管下の出来事である。

警察法によれば国家地方警察と市町村警察とは各自管轄区域があり、原則として管轄区域外に於て権限を行使することが出来ない。唯同法第五十七条第五十八条にその例外規定があるだけである。

仍て本件について考えて見るのに市町村警察管轄区域内にては原則としてその権限を及ぼすことの出来ない国家地方警察が搜査した証拠書類を採用するにつき、本件がそれを採用し得る場合に該ることが全記録を通じて見て全く発見することが出来ない。審理不尽と謂ふ所以である。況して本件では被告人の自白以外に右証拠のみが採用された場合であるに於てゞある。

第二点原審判決は量刑不当である。被告人は齢未だ二十四歳本件が初犯で前科なく、然も炭坑夫として毎日真面目に稼働しているものて、約五十日間勾留せられて刑務所の味も相当身にしみて感じている筈であり、且又保釈請求書等に徴して明白であるが、内縁の妻の父が身元を引受けていて再犯の虞れもないものと考えられ被害品は全部返還されて実害なきに帰している。

以上の次第で原審は執行猶予の判決を言渡すべきであつたに拘らず、此の事を為さなかつたのは量刑甚だ不当である。

被告人の控訴趣意

原判決に不服の理由は左の通りであります。

一、初犯ではあり執行猶予の恩典を戴きたいため。

一、内縁の妻妊娠中にて出産予定日も迫り居り亦経済的にも困窮致し居るため。

一、前科があれば要職に就く事困難のため。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例